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梅雨の六甲山 | 野草と作物

アジサイ

長雨の切れ間に太陽が顔をのぞかせた7月、色とりどりのアジサイたちの中で、光を受けていっそう輝く花があります。純白のアジサイ、アナベルです。北アメリカ原産の野生種をもとに作られた品種で、原種は日本のガクアジサイに似た姿をしています。花開くにつれてライムグリーンから白に薄れる装飾花は、色づく、という言葉では表現しきれない不思議な美しさを持っています。

インゲンマメ

インゲンマメが収穫できました。日本各地で呼び名が変わる豆で、サンドマメ、ゴガツササゲ、ニドササゲと様々。その多収ぶりを指す言葉が多いようです。ところが別種のフジマメにもインゲンマメの名がついていたり、サヤエンドウがサンドマメと呼ばれていたりと、「インゲンマメ」の真相はやぶの中です。そもそも、17世紀に禅僧隠元が明朝からやってきた際に持ち込んだ豆、というのが隠元豆の由来なのですが、当時からフジマメをインゲンマメと呼ぶのは誤りだ、という記述があったりと、早期での混同が見られます。成熟した豆にはレクチンというたんぱく質があり吐き気を引き起こすので、生食は避け、十分過熱してから食べることをお勧めします。

エゴマ

6月に植えたエゴマの葉。土に合っているようで元気に育っています。富山県にある縄文時代の小竹貝塚からは、土器に練りこまれたエゴマの跡が見つかっており、相当昔から人と関わっていたことが分かります。種子からは油が採れ、実も葉も食べられる、とあれば、当時はきっと重宝されたことでしょう。シソの変種ですが、葉には油分を感じる濃厚な味があり、醤油漬けにすると美味しいご飯のお供になります。

オオバコ

穂状に咲いたオオバコの花。漢名の車前草は、馬車や牛車のわだちに多く生えることから名付けられました。水を含むと粘着性を持つ種子は、靴やタイヤにくっつき運ばれることで生息範囲を広げます。この性質も人の生活圏に姿を見せる秘密なのかもしれません。道の真ん中に生えるので、よく踏まれます。DOKIでもそこここに生えて、地べたに踏みつけられているのを見かけますが、全然へっちゃらのようです。種は利尿・咳止めなどの生薬として使われるほか、春の若葉は天ぷらや、醤油洗いしておひたしにすると美味しく食べられます。

オカトラノオ

オカトラノオ。トラのしっぽに似ていることか付けられた名前ですが、びっくりした猫のしっぽにも見えます。根元から穂先に向かって小さな白い花が順番に咲いてゆき、草むらから一斉に白いしっぽがひょこひょこ現れます。春の若芽はおひたしにして救荒食として食べられていたらしく、酸味を生かして酢味噌和え、天ぷらにもできるようです。湿地に生える近縁種のヌマトラノオは、星宿菜という名前で生薬として利用されていた記録が残っています。

ガクアジサイ

こちらはガクアジサイ。ミツバチが訪花してせっせと蜜を集めていました。蜜と花粉は中心の両性花にあり、周りにある四ひらの装飾花は虫を誘う役割を持っています。薄く釉がかかったようなつぼみの硬質さと、小さな花が密集して咲く様からは、どこか海の生き物の雰囲気を感じます。六甲山では他に、よく似た見た目のヤマアジサイも見つかります。どことなく華奢な姿と光沢のない葉が特徴です。

春菊

畑の春菊が花をつけました。DOKIの花期は平地からおよそ一月遅れて訪れるのですが、それでもやや遅めです。欧米ではもっぱら鑑賞用として育てられているそうで、食用にしているのは東アジア圏が主のようです。地中海沿岸が原産地で、ギリシャのクレタ島では食べられているらしいのですが、調べてもよくわかりませんでした。春菊はオリーブオイルとニンニクで炒めても美味しいので、向こうでもそのように食べられているのかもしれません。

トウモロコシのヒゲ

水滴がついたトウモロコシのひげ。このひげは絹糸(けんし)と呼ばれるめしべで、トウモロコシの実一粒から一本ずつ伸びています。加工の段階で捨てられてしまうことの多い「ひげ」ですが、茹でてサラダに使ったり、素揚げにしたりすることで案外美味しく食べられます。この写真を撮影した梅雨時はまだまだ子供でしたが、先週見かけたときは随分生長していました。夏のDOKI ROKKOをポストする際に、その様子も併せてお伝えしたい思っています。

ニンジン

冬を越え、立派にとう立ちしたニンジン。春菊と同じ畑で栽培中です。ぽぽぽっとした白い花はセリ科の植物によく見られ、アシタバやセロリ、ミツバなども似た形の花を付けます。平地では1メートルを超えて成長することも普通ですが、DOKIの標高ではやや小ぶりの背丈。むしろセリ科の高山植物であるハクサンボウフウやシラネニンジンに近いたたずまいをしています。

ネジバナ

イネを思わす立ち姿、寄りて見るに花ねじれたり。その名もまさにネジバナです。
人里で目にできる数少ない自生種のランで、咲かせる花は1センチにも満たない大きさですが、ハッとする自然美を見せてくれます。そのねじれた特徴的な花序は世界中で愛でられているようで、漢名は綬草(綬は勲章に用いられる紐の意味)、英語では Lady’s tresse、貴婦人の編み髪なんて名前をもらっています。ヒョロリとした地上の姿の一方で、地下の根っこは太く短く、まるで芋のような形状をしています。万葉集の歌に詠まれた、古い呼び名のひとつ「ねつこ草」は、もしかするとその根の形から付けられたのかもしれません。

ヒノキ

雨に打たれたせいでしょうか。ヒノキの未熟な球果が落ちていました。果樹にやってくるカメムシの仲間はこの球果を餌に成長します。春に花粉の飛散量が多い年はカメムシの量も増す、というのは有名な話ですが、今年はどうなるでしょうか。六甲山では明治35年からヒノキの植林が開始されました。同時期に植えられたスギと比べると、乾燥に強い性質からか尾根に多く見られます。

ホーリーバジル

ホーリーバジルです。可憐な紫色の花、生食できるほど柔らかな葉に甘みと涼やかさを感じる香りと、その存在はまさにハーブ界のアイドル、なんて表現は言い過ぎでしょうか。和名は神目箒(カミメボウキ)、目箒はバジルのことなので、ホーリーを神と訳したのか、あるいはサンスクリット語名のトゥルシー、比類なきもの、からも着想を得たのかもしれません。その名からうかがえる様に、インドやネパールなどのヒンドゥー教圏では女神の化身として栽培されている由緒ある植物でもあります。葉の色や香りの異なるいくつかの変種が存在し、現地ではそれぞれに細かな利用法があるようです。日本でポピュラーなのは、やはりお茶。全草が食用なので、これから新たな使い方が見つかるかもしれません。DOKIのハーブ園で栽培中です。

ホンアジサイ

ホンアジサイの花をクローズアップしてみました。アジサイの花色は、土中から溶けたアルミニウムが花部のアントシアニンと結合することで青みを帯びていきます。土が酸性に傾くほどイオンが溶け出すので、PH値で色が変わる、という理屈になるのでしょう。アルミニウムは植物の根の成長を阻害するので、一般に酸性土壌は痩せ地とされています。ところがアジサイはこのアルミニウムを体内に貯めこむ特性により、酸性地でも元気に育つことができるのです。梅雨に浮かぶアジサイの青は、彼らの生存戦略の証、とも言えるのかもしれません。

マンリョウ

マンリョウの花。杉林の道沿いに植えられています。うなだれるように花をつけるので目立たない存在ですが、気泡ガラスのような質感と薄桃色が素敵です。晩秋の頃から実をつけ始め、冬の訪れとともに色を深めて真紅の鈴なりを実らせます。センリョウと合わせて、お正月の縁起飾として目にされたことがあるかもしれません。しかしその紅い実は小鳥たちの大好物。見ごろになると、あっという間に食べつくされてしまい、葉っぱだけの姿になる事もしばしばです。

ムラサキシキブ

ムラサキシキブの花。スギゴケの上に散る紫がよく映えて、みやびな名前にふさわしい美しさです。六甲山の中腹以上にしばしば見られ、秋にボールガムのような光沢の実を沢山実らせます。木の実もやはり紫色ですが、花よりさらに濃い色をしています。
漢名の紫珠(しじゅ)も、実の美しさを称えて付けられていたりと、なにかと名付けに恵まれている存在です。その一方でノミヅカという武骨な別名もあり、身近な材として使われていた意外な一面も持っています。

落花生

ピーナッツでおなじみの落花生です。エゴマと同じタイミングで植え付けたのですが、さっそく花を咲かせました。不思議な実の付け方をする植物で、黄色い蝶形の花がしぼんだ後、根元の子房柄(しぼうへい)が土に突っ込み地中で実が生ります。1709年、宝永6年に刊行された博物誌「大和本草」にも、その特殊な習性がしっかり記されています。その一方で実に関しては「大きさ桃の如し」とあり、遠い海の向こうから来た未知の植物へのときめきが感じられます。国内で本格的に栽培が開始されたのは明治期に入ってからで、当初は精油を主な目的としたものでした。千葉県では近海で獲れたイワシと合わせてオイルサーディンを大量生産する計画もあったようです。

ラッキョウ

こちらも畑の作物。食べごろのラッキョウです。長く伸びたひげ根は、土の中からたくさん栄養を得たあかし。生長は収穫後も止まらず、一粒に潜むパワーを感じさせます。持ち前の生命力から、鳥取県では砂丘地で栽培され、その歴史は参勤交代で江戸から持ち込まれたことに始まるようです。同時代にまとめられた江戸周辺の動植物目録「武江産物誌」には薤(かい)の字で紹介されており、韮(にら)や葱(ねぎ)と共に市街地や隣接地で栽培される野菜として親しまれていました。

蝋梅(ロウバイ)の実

生ってから時間が経って茶褐色の松かさのようになっています。冬季に半透明の黄色の花を沢山つけます。名前の由来ともいわれる独特の質感と甘い香りで有名ですが、花期以外はやや地味な印象です。秋には紅葉も見せるのですが、枝葉が伸びやすくうっそうとした印象になりやすいからでしょうか、あまり話題になることはありません。この実はさらに枝に残り続け、周囲の繊維を残した籠のような姿へと変わります。中に小豆に似た種を残した不思議なフォルムで、花とのギャップが大きい見た目をしています。

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