ハチミツ採り
DOKIでは昨年から、年1~2回のペースで、ニホンミツバチのハチミツ採りを行っています。花盛りの春、ハチ達は六甲山のヒサカキ、ミツバツツジなどに訪花し蜜を集めます。そして巣で熟成された蜜は、初夏にこがね色の輝きを放つハチミツとなるのです。
重箱型巣箱
山桜下に置かれたニホンミツバチの巣箱です。重箱式と呼ばれる、底の無い升を四つ重ねた形をしています。内部の巣は鍾乳洞のように天井部から垂れ下がり、上部がハチミツ貯蔵庫、下部が育児部屋となっています。ハチを逃がした後上部の箱を外すことで、巣内のハチ達への被害を抑えてハチミツを採ることができます
上蓋と箱の間に敷く中蓋には、巣の根本の跡。放熱フィンのようなニホンミツバチの巣の構造が良くわかります。重箱型巣箱は、明治4年に編纂された「蜂蜜一覧」に「雲州蜜堂継匣」の名で記載されています。同書はウィーン万博出展に際し、江戸時代の養蜂技術の総覧として作成されました。
燻煙
無事に箱を取り外せたら、今度は燻煙器の出番です。ハチが蜜に溺れてしまわないよう、下から入念に吹き付けてハチを逃がします。燻煙器はセイヨウミツバチの養蜂でも活躍する道具で、こちらはハチ達を巣内に籠らせる働きをします。これは山火事に対するセイヨウミツバチの性質を利用した使用法のようです。
ミツバチよけの燻煙器に、スギの落ち葉とヨモギの葉を詰めています。ヨモギは蚊遣り火にも使われていた代表的な虫よけ植物ですが、生のままだと火付きが良くありません。そこで天然の着火剤ともいわれるスギの落ち葉を加え、燃焼力をアップ。煙がモクモクです。ミツバチは羽に蜜が付くと飛べなくなってしまうので、採蜜時にはうまく煙で逃がしてあげることが大切なのです。
巣の切り出し
巣の切り出し。一切りごとに金色のハチミツが溢れ出します。ハチミツ採りのハイライトともいえるシーンですが、箱の内部にもご注目。井型に渡された棒は梁のような役割を果たし、ハチの巣を補強します。巣を取った後は箱の中をきれいに掃除して、次の巣作りがしやすい環境を整えてあげます。
巣内の貯蜜庫は蜜蝋で封がされており、フタを剥がさないとハチミツが流れ出ません。巣の塊を一つずつ、裏返しながら開封していきます。フタ剥がし用の道具は写真のくし型の他にも、こて型、へら型、短刀型など様々。DOKIでは未トライですが、取り除いたフタからはきれいな白い蜜蝋が採取できます。
花粉
集められた花粉はハチミツとは分けて貯蔵され、ハチ達のごはんになります。これらは巣内の育児部屋と貯蜜庫の間に貯められていることが多いようです。ハチの唾液と蜜、そして花粉が発酵することで作られ、欧米ではビーブレッド、ハチのパンと呼ばれています。
ハチミツ採集
ざるいっぱいの巣を日なたに置き、自然に流れ出てくる蜜をボウルに集めます。このようにして採られたハチミツは「タレミツ」と呼ばれ、最上の品として珍重されました。また、残った巣を布の袋で絞ることで「シボリミツ」が採れる、とも「蜂蜜一覧」にはあります。さらにシボリミツは夏ごろに酸味が生じる、という記述もあり、一段劣るものとして見られていた事が読み取れます。
貯まった蜜を粗目の布に包みこみ、さらに絞り濾すことできれいなハチミツが得られます。蜜を取り切った巣の残りかすを水を張った鍋に煮溶かし、浮いてくる蝋成分を集めれば黄色い蜜蝋が採れます。巣を袋に入れる、かごやざるを鍋に沈める等々、蜜蝋のろ過は地域によって多様な方法が取られていました。蜜蝋の利用は幅広く、ワックスやキャンドルをはじめ、化粧品や繊維油剤、塗り薬の基材など多岐に渡ります。
最後に
私たちの食卓に並ぶ野菜や果物の多くは、ミツバチの活動によってその生産が支えられています。国連環境計画の2018年の報告では、ミツバチなどの受粉生物は食用作物生産量のおよそ4分の3に寄与している、とあり、人とミツバチは意外に深い関係にあるようです。彼らの営みのおもしろさ、そしてもたらしてくれる恵みを知ることで、ハチと人の関わりに思いをはせるきっかけになれば、と思い、数回に渡り紹介させていただきました。