例年ならば冬季にミツバチの巣箱を解体することはないのですが、今年は少し事情が違います。
山桜の下で暮らしていたミツバチ達がいなくなってしまったのです。何度も蜜を採らせてもらった群れなので、ひっそりと静まり返った巣箱を眺めていると、往時の勢いを思い出してしまい、さみしさがつのります。
けれど悲しんでばかりもいられません。ハチ達が去った巣箱には蜜蝋でできた巣、そして蜜が残されています。それらをしっかり採取し、巣箱をきれいに掃除しなければ、新たな群れを迎え入れることもできません。
下から見た巣の全容です。巣箱の最上段で営巣が止まっていて、育児層まで巣が育っていないように見えます。一方で巣内には貯蔵された蜜が残されたままになっていました。
花が少なくなる秋から冬にミツバチが巣を移す場合、貯蔵されたハチミツは彼らの食料として食べつくされる場合がほとんどです。もしかするとアカリンダニの寄生が蔓延したことが、ハチがいなくなった原因かもしれません。
アカリンダニ症によるニホンミツバチ被害は、寄生がミツバチの気管という目視しづらい部位に発生する点も含め、なかなか表面化しません。国内でアカリンダニが発見されたのも10年ほど前とごく最近のため、対策以前に存在が認知されていない、というのが根本の問題かもしれません。
巣箱を横から見ると、やはり蜜がしっかりと蓋をされて貯蔵されているのが分かります。夏の頃とは段違いの粘度と色の濃さ。
いままでの採蜜の様子が思い返され、こうしていればミツバチへの被害が少なく済んだのかな、とついつい考えてしまいます。
ニホンミツバチの養蜂家の中には、蜜にまみれたハチ達を水浴びさせることで、殺さずに巣に帰してあげている方もいるようです。頭が下がる思いです。
燻煙器も防護服も登場しない採蜜、なんとも奇妙な気分になるシーンです。
蜜を採りきった後はバーナーで巣箱の中を炙り、こびりついた巣の残骸を溶かしていきます。
蜜蝋の融点は65℃前後。加熱しすぎると発火してしまうので注意しつつ、溶けた蝋が満遍なく箱の内側に回るよう作業を進めます。
このように箱内を整えておくことで、ハチ達が営巣しやすくなり、また巣別れの時期には蜜蝋の香りが新たな群れの目印となるようです。
今回は群れがいなくなってしまったので、さらに念入りに箱を焼く必要があります。
ミツバチ巣箱の隠れた同居人。最も有名なのがスムシというガの幼虫で、彼らは巣や蜜を食料に暮らす困りもの。健康なミツバチの群れであればスムシを追い出してしまうので、問題になることはあまりありません。
しかし群れが弱っている時などはスムシが大繁殖してしまい、巣や蜜はおろか、巣箱まで食べられてしまうこともあります。そのような状態に陥ると、ミツバチ達は新たな住居を求めて逃げ去ってしまいます。
今回巣内に目立ったスムシの発生は見られなかったのですが、小さな幼虫が潜みやすい箱のつなぎ目や、剥離しかけた材の裏側を念入りに焼くことで、スムシの発生を未然に防いでおきます。
スムシ被害はハチ達が削り落とした巣の欠片や排せつ物が巣箱の底部に貯まることで発生しやすく、日々こまめな掃除を行ってあげることが肝要のようです。
採取した巣のうち、蜜が入っていなかった部分の蜜蝋を溶かし出し、新品の巣箱に塗ってゆきます。塗布する箇所は巣箱のフタとスノコ型の内ブタ。あらかじめ燻煙しておいた巣箱に巣の欠片を並べ、炙り溶かします。
蜜蝋が豊富にある場合は巣箱の入り口、上段から順に箱の内側に塗布します。あまりにベタベタに塗るとハチ達が嫌がってしまった、という体験談もあり、やりすぎは禁物のようです。
こちらの処理は巣別れ時期直前に行うのが普通ですが、あらかじめ塗っておいた蜜蝋を再び過熱する方法もあり、ハチ達を導く香りが要であることが分かります。京都ニホンミツバチ週末養蜂の会が公開している昨年の報告によると、巣別れの最盛期は3~4月。同会がweb上で公開しているマップでは、リアルタイムで各地の養蜂家の方からの投稿を閲覧することもできます。