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「井上雅之展ー多摩美術大学退職記念ー」レポート

展示情報

https://g-tokyohumanite.com/exhibitions/2022/0404.html

会場:ギャルリー東京ユマニテ / Galerie Tokyo Humanité(東京都中央区京橋3丁目5-3)
会期:2022年4月4日(月)~2022年4月23日(土)

東京都中央区京橋にある、ギャラリー東京ユマニテにて開催されていた「井上雅之展ー多摩美術大学退職記念展」の様子をご報告します。本展では、2022年制作の巨大な新作2点、作品構想の過程で制作されたマケット(ひな型)4点、さらにイメージの出発点となるドローイング2点を含めた、計8点が展示されていました。

展示タイトルにもあるように、本展は作家井上雅之の新作展であると同時に、多摩美術大学工芸科で教鞭を取られている井上先生の退職記念展でもありました。訪問時にも同校の在校生や卒業生 の方がお見えになり、制作解説を交えた小講義が開催されていました。ドローイングからマケット制作を経て、素材に触れて心に起こる波を明確な形に起こす過程や、実際に陶土を用いて大型の作品 を作り上げていく方法まで、詳しく教えていらっしゃいました。

作品紹介

作品の最終形が陶製の立体物である以上、平面で描かれるドローイングには、未だ姿を現していない様々な形が潜んでいます。その一方で、ドローイングから感じられる「積む」という行為への興味、そしてその集積によっていずれ現れるであろう、形のないベクトルの存在は、陶の作品にも通じているように感じられました。

様々なマケット。マケットとは作品構想の中で作られる立体的なスケッチ、ひな形の事を指します。用いられている素材は段ボール、グルー樹脂、プラスチックパネルなどです。作品の構造、色彩や質感の違いなど、完成品に見られる様々な要素が、マケット制作の段階で形として表れている事がよく分かります。

『H-221』(2022)

全長2mを超える巨大な作品。太古に生きた恐竜や、特撮作品に登場する大怪獣の骨を彷彿とさせ るような姿です。DOKIの展示作品と同じく、いくつもの陶製のパーツを組み上げて作られています。

細部に目を向けていくと、陶という素材が持つ特徴に気が付きます。遠目からは骨のように見えて も、白くひび割れた表層の下にはぬらりと光る別種の釉薬が顔をのぞかせ、生命体の皮膚や傷跡を 彷彿とさせます。また、つなぎ目に用いられているパテにも細かな細工が施されています。隣り合うパーツに表れる色彩や造形を、接合部を橋渡しに眺めていくと、この作品がパーツの複合体ではなく、1つの巨大な作 品として成り立っている工夫が分かるような気がします。

『H-222』(2022)

こちらも負けず劣らず巨大な作品です。『H-221』を眺めていると、頂の一点に視点が誘導される感じがしたのですが、この作品は視線が周囲に拡がっていくような感覚を抱きました。

実寸はこちらの作品の方がやや小ぶりですが、作品が持つ空間はこちらの方が大きく感じます。 放射状に拡がりはじめた視線は、辺や面に施された赤い釉薬や、質感の異なる球形をした不思議な 部分に留まります。今度はそこを足がかりにして、新たな稜線へと視線が入り込んでいく。大きな樹木の枝を眺めている時のような、ものに視線を這わせていく楽しみを教えてくれる作品だと感じました。

さいごに 「積む」考

積む、という行動はヒトの持つ特異な習性の1つなのかもしれません。もちろんヒトと遺伝子情報が 98.7%一致しているチンパンジーも、物を積むことはできます。けれども、積み上げていった先の形を 想像したり、積む事を構造的にとらえて安定性を強める、ということは、彼らにとってはとても困難なことのようです。そういった意味で「積む」ことには、どこか理知の香りが漂っています。

では実際に、積む、という行為が実践された例を思い浮かべてみると、石垣しかり、ピラミッドしか り、なんだか非常に肉体的な作業の果ての成果物ばかりが浮かんできてしまいます。しかも、いい加減な積み方をすれば、今までの「積み重ね」が台無しになってしまう危険もあるわけで、アタマもしっ かり働かせないといけません。

つまり何かを積む行為とは、頭と身体の間を情報が瞬時に、そして何度も行きかう活動と言えます。成果物が作品で、その素材を積むことは、アタマも含めた全身を使った、素材との対話とも言えるかもしれません。

井上先生の作品は土を積んで作られています。しかもそれは画一的に形作られたパーツではなく、 手でこねられ、延ばされ、潰されるといった、土と身体の種々の接触の果てに生まれたものです。上で挙げた「積む=対話」説に則って言えば、井上先生の仕事は、土とのやり取りの上に、それを積む ことでさらに素材と向き合うという、非常に高密度な対話によって成り立っているのではないでしょうか。

企画展のご案内

2022年6月11日より、茨城県陶芸美術館にて井上雅之さんの企画展が開催されます。同展は、本記事にてご紹介する新作2点を含めた約70点の作品が一堂に会し、初期から現在まで、作家の40年間の制作活動が俯瞰できる展示となっています。

DOKI ROKKOの常設作品『O-173』も出展作品の中にございますので、この機会にぜひご覧いただければと思います。

https://www.tougei.museum.ibk.ed.jp/viewer/info.html?id=288

会期

2022年6月11日(土)~8月28日(日)

会場

茨城県陶芸美術館
【地下1階】企画展示室、オープンギャラリー
【1階】ロビー、ホワイエ、屋外展示広場

開館時間

午前9時30分から午後5時(入場は午後4時30分まで)
休館日毎週月曜日 [ただし、7月18日、8月15日は開館]、7月19日(火曜日)

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