イタドリ
梅の花をマイクロサイズに縮小したような立ち姿。イタドリの花です。全体の姿はうっそうとしていますが、花自体は透明感があり華奢なつくりをしています。
春の若芽は食用に、花が枯れた後の根茎は整腸用の漢方にと、古くから利用されてきた山野草です。かたやイギリスではクズに並び、その旺盛な繁殖力で嫌われている外来種。イタドリが生えている土地は不動産価値が下がる、という事態からも、その疎まれぶりが分かります。
これは19世紀にイタドリが園芸種として持ち込まれた際に、本種を食料とする昆虫がイギリスに生息していなかったのが原因であるようです。2009年からは、天敵昆虫が日本から輸出されており、薬品防除以外で生態バランスを取る試みが続いています。
日本国内での利用は、嗜好品の領域にも及んでいます。戦時中煙草が不足した際、代わりに喫煙されたのが本種で、煙草の本場イギリスからすると考えられないほどのイタドリ愛ぶりが日本にはあるようです。
イヌタデ
イヌタデの花。どこにでも生える強い草で、小さなさんご色の花と実が柄の先に密集して付く様が人目を引きます。
この写真は9月に撮ったものですが、イヌタデの葉はさらに秋が深まると紅葉し、花実に負けない鮮やかさを見せてくれます。
「蓼(たで)食う虫も好き好き」のことわざに挙げられるように、タデ科の植物は辛みが強く、ベニタデの若芽はお刺身のツマとして食べられています。
一方でこのイヌタデは辛みが弱く、薬味として役に立たないことから「イヌ」の名が付いています。かといって毒がある訳ではなく、花が咲く前の若葉は天ぷらやおひたしにして食べることができます。
ゲンノショウコ
夏の六甲山に小さな彩りを加えてくれるゲンノショウコ。秋の頃はこんな不思議な姿をしています。
直立する実は熟すと5本に裂け、下部についた種をまきあげ周囲に飛ばします。くるりと巻き上がった果実は優美な形で、お神輿の飾りになぞらえて、ミコシグサという名も付けられています。
ゲンノショウコはキキョウなどの花と同じように、おしべが先に熟し、花がしなびかける頃めしべが熟す、おしべ先熟花の仲間です。
この習性は自身の花粉による自家受粉を避けるために備えられており、以前のポストで紹介した写真では、おしべが盛んに花粉を出している様子が確認できます。
シコンノボタン
シコンノボタンの花。なんとも和を感じさせる名前ですが、ブラジルなど中南米原産の、熱帯出身の花です。
釣り針のように曲がったおしべが特徴的で、めしべと合わせて花弁の中にクモが潜んでいるように見えることから、スパイダーフラワーの別名があるようです。
神戸でブラジル原産の植物といえば、元町駅などに街路樹として植えられているイペの樹が有名かもしれません。桜の花期を追うようにして鮮やかな黄色の花を枝いっぱいに咲かせる姿は、1700km以上離れた国の色彩をイメージさせます。イペの樹は、ブラジルへ移民する人々の出航地であった神戸の歴史を物語る存在でもあります。
地球の裏側の、これまた遠い六甲山上に植えられたこの花も、いうなれば故郷を離れた異邦のもの。この土地に馴染んでくれれば、と願うばかりです。
シダ
葉裏にたっぷり貯まった胞子のう。虫の卵と見まがうような姿ですが、シダ植物が増えるためにはこの胞子が欠かせません。
1mmに満たない大きさの胞子のうは水分の蒸発に伴って盛んに反り返り、胞子の粒を投げ飛ばすように周囲に放ちます。このように、シダ植物は花や種といった器官を持たずとも、仲間を増やすことができるのです。
シダが地上に出現したのは約3億5000万年前。胞子で増える植物として藻や苔に次いで大繁殖し、その体は後の世に化石燃料として発掘され、産業革命の原動力となりました。
写真のシダはノキシノブの仲間で、ほかの樹木や岩に根を張って生活しています。
ツルリンドウ
笹藪の中、深紅の実が目に留まりました。もしや笹の実・・・と心がさわぎましたが、よくよく観察するとつる性の植物が笹の葉に絡んでいることが分かります。
渦中の草の名はツルリンドウ、9月から10月にかけて薄紫色の花を咲かせ、花弁を残したまま中に果実を付けるユニークな植物です。
リンドウの仲間は明るい草地や林床を好み、陽を求めるかのように花を上向きに咲かせます。しかしツルリンドウは木陰に生えるためか、あまり目立ちません。笹の葉にかくれて、花が咲いている事にも気がつきませんでした。
11月、色褪せた冬枯れの季節に生る紅い実が、その存在を教えてくれたのでした。
ナギナタコウジュ
ナギナタコウジュの花。コウジュは生薬の香需として用いられる草全体を指す言葉で、ナギナタは一方向のみに花を付ける姿から喩えられたようです。
シソ科の特徴にもれずナギナタコウジュも香りが高く、アイヌ文化では「エント」の呼び名でお茶やお粥の具材、また解熱と発刊作用を持つ薬として日常的に用いられていました。
北海道白老町では、アイヌ食文化を紹介する活動の一環として、野草茶としてエント茶が製造・販売されています。
また本種の茎は抗菌作用も持っているらしく、ひょうたんの蓋として用いると水が腐らない、というお話も残っています。
ネムノキ
ネムノキの実。空に向かって糸のように開く神秘的な花からは想像もつきませんが、さやに入ったマメ科らしい姿です。
花の形に加えて葉の習性もまた特殊で、陽が落ちると葉が閉じて垂れ下がり、まるで眠りにつくようにふるまいます。ネムノキという名前も葉の様子から来ており、眠た木(ねぶたぎ)、眠り子(ねむりこ)などの別名が日本各地で見られます。
六甲山には自生種の他、山頂道路の街路樹として植えられており、花期の6月にはアジサイと合わせて、梅雨時の山を彩ってくれます。
江戸時代の医薬学者、貝原益軒が著した「花譜」では、著者が育てた木々や草花の観察を通して得られた知識が、各地の言い伝えを交えて紹介されています。ネムノキも旧暦五月の一番最後に挙げられており、本種を庭や玄関先に植えることで、そこに暮らす人のいらだちや怒りを鎮める効果がある、と益軒は述べています。若葉を茹でて食さば心志をやわらげ、よろこびたのしみ、憂なからしむ、とまで書かれており、なんともゆるりな樹であるようです。
フサフジウツギ
古くから人の手が入っている関係上、六甲山には野生化した様々な園芸種の植物が生息しています。最も顕著なのがアジサイ種で、山裾から頂上までいたるところで目にすることができます。
今回ご紹介するフサフジウツギもまた、そのようにして六甲山に生きることになった種の一つ。ブッドレアの名がよく通っています。
特徴的な形の花は夏の初めから紅葉が始まる頃まで咲き続け、明るく開けた場所を好むため、よく目立ちます。
似た見た目のフジウツギは数が非常に少なくなっており、絶滅が危惧される在来種として兵庫県のレッドデータブックに登録されています。
ミズヒキソウ
9月の水引草。紅白はっきり分かれた花弁が観察できます。
初夏の投稿の際にコメントで教えていただいたとおり、どこにでも生え、そしてよく茂ります。その繁殖力は時に疎まれるほどですが、音も立たないほどかすかな風にも揺れ動く花姿には、人の心をとらえる何かがあるようです。
昭和初期に早逝した詩人、立原道造の「のちのおもひに」には、水引草が揺れ秋虫の鳴き声が漂うばかりの、静かな林道が描写されています。詩の中では「夢」がその風景の中に帰ってゆく、という形を取っており、山里の寂しくも安らかな空気が感じられる、美しい詩です。
実目麗しき厄介者、と喩えたら怒られてしまいそうですが、疎むも愛でるも人の理屈。その道理に引き込んだのならば、なんとか共存していきたいところです。
松ぼっくり
六甲山といえば松林。松といえば松ぼっくり。されど松ぼっくりは秋のもの・・・?
秋の季語にもなっていたりと、秋冬のイメージが強い松ぼっくりですが、枝先に注目してみると案外季節を問わずに実っています。
7月から10月にかけて台風が多くなり、風に吹かれた松ぼっくりが地面に落ちることで人目に付く。あるいは、落葉の季節に私たちの視線が地表に向くことで、より目立つ存在になっているのかもしれません。
現在の松林のほとんどは、明治期に行われた大規模な植林によるもの。これは、江戸期に過剰な伐採が行われ衰退した当時の植生が、主に松で構成されており、それに倣った種が植えられたことに由来すると考えられています。アカマツ林植生は六甲山全域に存在していますが、特に北側の尾根筋に多く見られます。
ムカゴ
夏が過ぎ、茂る枝葉の勢いが落ち始めると、見慣れているはずの景色の中に思いがけない出会いを得ることがあります。
今回の写真もその一つ。コムラサキの枝に絡むつるにムカゴが生っていました。葉の形と付き方から、おそらくヤマノイモのようです。
ムカゴは種芋のような働きを持っており、地上に落ち芽生えることで、新たな個体を増やしていきます。漢字で書くと「零余子」で、どこか正字的な、由緒の在りそうな字面です。
定番の炊き込みご飯はもちろん、ちゃちゃっとバターとお醤油で炒めても美味しいムカゴ。スーパーマーケットなどでの流通は稀ですが、お住いの地域の直販所や、旬の時期は通販などでも入手できますので、試してはいかがでしょうか。
ラッキョウ
10月に撮影したラッキョウのつぼみ。一月後には赤紫の花を満開に咲かせていました。
産地である鳥取や福井では、畑に咲いた花が一面を彩る美しい景色を見ることができます。
美しい姿ですが種は作らず、地下の茎が分球することによって増えます。
ラッキョウは夏に収穫しきらずに粒の大きさをそろえて移植することで、翌年も収穫が可能です。
ワルナスビ
丁子が辻からDOKI ROKKOへ向かう道すがら、ガードレール下にナスに似た花を見つけました。よく観察してみると茎にトゲトゲ葉にもトゲ。全体に漂うワルい雰囲気が、明らかにナスではないことを示しています。
後に図鑑で調べてみると、なんとその名もワルナスビという種であることが分かりました。名付け親である牧野富太郎の随筆「植物一日一題」には、自身で栽培した本種の生態が紹介されており、扱いに手を焼いた体験が詳しく記されています。プチトマトに似た美味しそうな実を付けますが、全草にソラニンが含まれているため食用には向きません。
北アメリカ生まれのワルナスビ。世界中で防除しづらい外来種として繁殖しており、まさに「憎まれっ子世にはばかる」を地で行く存在です。イタドリの例のように、所変われば、という事が植物にはつきものですが、この種のワルさはなかなか手ごわいようです。ちなみに花言葉は「いたずら」。ユニークです。